本項では、以下の内容について解説します。
球面レンズは、2つの球面を重ね合わせた形状をしており、その面の形状の組み合わせによっていくつかの種類に分けられます。本章では、まずレンズの種類を分類する前提知識として曲率半径について解説します。
まず、具体例として、図1に両凸レンズの形状を示します。
曲率半径\(\large{R}\)は、球面レンズの面の曲がり具合を表現しています。曲率半径は球面の中心から球面までの距離で定義されます。
曲率半径\(\large{R}\)が大きくなると、より大きい半径の球面となるため、レンズ面の曲がりがより緩やかになります。
図2は曲率半径の大きさが\(\large{R_1 < R_2 < R_3}\)の順に大きくなるように並べています。
曲率半径\(\large{R}\)が大きくなっていくと、球面が緩やかになる様子が分かります。
同じ屈折率のガラスのレンズでは、曲率半径\(\large{R}\)が小さい面ほど、光を屈折する作用が大きくなります。
一方、曲率半径\(\large{R}\)が大きい面ほど、光を屈折する作用は小さくなります。
曲率半径の定義や符号については別の記事に詳しく記述しています。
球面レンズは、構成される面の曲率半径によって図3のようにいくつかの種類に分けられます。
球面レンズを大きく分類すると、凸レンズ(converging lens)と凹レンズ(diverging lens)に分類されます。
凸レンズは外側に凸面を向ける形状をしており、凹レンズは凹面を向けた形状となっている特徴があります。
また、凸レンズは光を集める作用があり、凹レンズは光を発散させる作用を持っています。
(後述しますが、形状は凸レンズに分類される場合でもレンズの厚みと曲率半径によっては光を発散させる作用を持つ場合もあります。)
図4のように、両側が外向きに凸となっているレンズを両凸レンズ(biconvex lens)いいます。また、両側が内向きに凹になっているレンズを両凹レンズ(biconcave)といいます。
まず、レンズの厚みをゼロに近似した薄肉の両凸レンズについて考えます。
ここでは、分かりやすくするため、第1面と第2面の曲率半径の絶対値が等しい両凸レンズ(\(\large{R_1 = -R_2 = R}\))であるとします。
レンズメーカーの公式から、第1面の曲率半径\(\large{R_1=R}\)、第2面の曲率半径\(\large{R_2=-R}\)、屈折率\(\large{N}\)の両凸レンズの焦点距離は以下のように計算されます。 $$\large{\frac{1}{f}= (N-1)(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2})}$$ 上式に\(\large{R_1=R}\)、\(\large{R_2=-R}\)を代入すると、 $$\large{\frac{1}{f}= (N-1)(\frac{1}{R}-\frac{1}{-R})=\frac{2(N-1)}{R}}$$ したがって、焦点距離\(\large{f}\)は、以下のように求められます。 $$\large{f= \frac{R}{2(N-1)}}$$
以上の計算から、薄肉の両凸レンズの焦点距離は曲率\(\large{R}\)に比例して大きくなる(屈折力は小さくなる)ことが分かります。
次に、レンズの厚みをゼロに近似した薄肉の両凹レンズについて考えます。
第1面と第2面の曲率半径の絶対値がRに等しいとすると、第1面の曲率半径\(\large{R_1=-R}\)、第2面の曲率半径\(\large{R_2=R}\)とすることができます。レンズメーカーの公式から屈折率\(\large{N}\)の両凹レンズの焦点距離は以下のように計算されます。 $$\large{\frac{1}{f}= (N-1)(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2})}$$ 上式に\(\large{R_1=-R}\)、\(\large{R_2=R}\)を代入して計算すると、 $$\large{f= \frac{-R}{2(N-1)}}$$
両凹レンズの焦点距離は、両凸レンズと符号が逆となりますが、曲率半径\(\large{R}\)と焦点距離が比例関係にあることが分かります。
次に、厚みのある両凸レンズの焦点距離について計算します。
レンズメーカーの公式から、第1面の曲率半径\(\large{R_1}\)、第2面の曲率半径\(\large{R_2}\)、屈折率\(\large{N}\)、厚み\(\large{d}\)の焦点距離は以下のように計算されます。 $$\large{\frac{1}{f}= (N-1)(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}) +\left(\frac{d}{N}\right)\frac{(N-1)^2}{R_1 R_2}}$$
ここで、2つの球面の曲率半径の絶対値が等しい両凸レンズ(\(\large{R_1 = -R_2 = R}\))の焦点距離は以下のように計算されます。 $$\large{\frac{1}{f}= \frac{2(N-1)}{R} -\left(\frac{d}{N}\right)\frac{(N-1)^2}{R^2}}$$
上式から、レンズの厚み\(\large{d}\)を考慮すると、両凸レンズであっても必ずしも正の焦点距離(屈折力)ではないことが分かります。 以下にレンズの厚みに対する焦点距離の符号を示します。
厚み\(\large{d}\)の条件 | 焦点距離\(\large{f}\) |
---|---|
\(\large{d < 2R\frac{N}{N-1}}\) | 正 |
\(\large{d = 2R\frac{N}{N-1}}\) | 無限(アフォーカル) |
\(\large{d > 2R\frac{N}{N-1}}\) | 負 |
両凸レンズの厚みが\(\large{d = 2R\frac{N}{N-1}}\)を満たすとき、焦点距離は無限大、すなわちアフォーカルとなります。
アフォーカルとは、平行光を入射しても像を結ばず、平行光を射出する働きのことをいいます。
図5のように、片面が平面、片面が凸面の形状をしているレンズを平凸レンズ(plano-convex lens)といいます。
また、片面が平面、片面が凹面の形状をしているレンズを平凹レンズ(plano-concave lens)といいます。
平面の曲率半径\(\large{R}\)は無限大であると考えます。曲率半径\(\large{R}\)は大きくするほど緩い球面を表すため、半径が無限大の球が平面に相当します。
レンズメーカーの公式から、第1面の曲率半径が\(\large{R_1=R}\)、第2面の曲率半径が\(\large{R_2=\infty}\)、屈折率\(\large{N}\)の平凸レンズの焦点距離は以下のように計算されます。 $$\large{\frac{1}{f}= (N-1)(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}) +\left(\frac{d}{N}\right)\frac{(N-1)^2}{R_1 R_2}}$$ 上式に\(\large{R_1=R}\)、第2面の曲率半径が\(\large{R_2=\infty}\)を代入して、 $$\large{\frac{1}{f}= (N-1)(\frac{1}{R})}$$ よって、焦点距離\(\large{f}\)は、以下のように求められます。 $$\large{f= \frac{R}{N-1}}$$ 以上より、平凸レンズの焦点距離は、曲率半径\(\large{R}\)に比例することが分かります。
また、平凹レンズは曲率半径の符号を負にすればよいので、以下のようになります。 $$\large{f= \frac{-R}{N-1}}$$
ここで、薄肉の場合(\(\large{d=0}\))の両凸レンズと平凸レンズの焦点距離の式を比較すると、同じ曲率半径\(\large{R}\)と屈折率\(\large{N}\)では焦点距離が2倍だけ異なることが分かります。 つまり、同じ屈折率\(\large{N}\)の材料により、同じ焦点距離のレンズを実現するには、平凸レンズの凸面の曲率半径\(\large{R}\)を、両凸レンズの半分の大きさにする必要があります。
焦点距離 | |
---|---|
両凸レンズ | \(\large{f= \frac{R}{2(N-1)}}\) |
平凸レンズ | \(\large{f= \frac{R}{N-1}}\) |
第1面と第2面が同じ方向に凸面を向けているレンズを、メニスカスレンズといいます。
メニスカスレンズは第1面と第2面の曲率半径の大きさによって、凸メニスカスレンズ(converging meniscus lens)もしくは凹メニスカスレンズ(diverging meniscus lens)と分けられます。
凸メニスカスレンズは、第1面の方が第2面より曲率半径\(\large{R}\)の絶対値が小さく、図6のように中心が厚く、周辺が薄い形状をしています。
一方、凹メニスカスレンズは、第2面の方が第1面より曲率半径\(\large{R}\)の絶対値が小さく、図6のように中心が薄く、周辺が厚い形状をしています。
ここで、厚みの無視できる薄肉レンズの焦点距離\(\large{f}\)は、レンズメーカーの公式から、以下により計算されます。
$$\large{\displaystyle \frac{1}{f}=(N-1)\left(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}\right)}$$レンズの厚みの無視できる場合は、曲率半径\(\large{R_1,R_2}\)の大小関係により焦点距離(屈折力)の正負が決まります。
図6のように左側に凸面を向けて配置した場合、凸メニスカスレンズは\(\large{|R_1| < |R_2|}\)であるため正の焦点距離を持ちます。また、凹メニスカスレンズは\(\large{|R_1| > |R_2|}\)であるため負の焦点距離となります。
メニスカスレンズの使用例として、メガネレンズにメニスカスの形状が使用されています。